ももいろクローバーZ『NEO STARGATE』—5thの意味とは

2018年5月20日アイドルももいろクローバーZ,歴史

 

ももいろクローバーZ

 『5TH DIMENSION』収録曲において先行公開され、長大なMVが作られ、さらに『overture』と同様の位置を占めるに至った新曲、『NEO STARGATE』。本楽曲の歌詞には、ももいろクローバーZの新たな「次元」が秘められていると我々は考える。そして我々が彼女達と共に次元を超越するためには、この楽曲を読み解かなくてはならない。本論にのいて我々は、本楽曲に示唆される彼女達の未来を暴き出し、我々だけが取り残されることが起きないよう——5人の革命について行くために——情報を提供することとしよう。

とらわれの正体

 さて、彼女達はいったい、何に捕らわれているだろうか。その答えは明白である。即ち、彼女達は「週末ヒロイン」という概念に捕らわれている。元来、この概念は彼女達自身を規定する存在であった。『Z女戦争』に至るまで、彼女達は「一般的な日常生活を歩みながらも、しかし週末には非日常のアイドルとして活動すること」を一貫して描き続けていた。しかし、『サラバ、愛しき悲しみたちよ』において転機が訪れる。「サラバ昨日を脱ぎ捨てて 勇気の声を振り絞れ 自分という名の愛を知るために」「振り返るな 我らの世界は まだ始まったばかりだ」——勇気の声を振り絞ることで、昨日から脱することが可能となる。しかしなぜ彼女達は、昨日から脱出する際に、「勇気」を必要とするのだろうか。それは、過去の議論において指摘したとおり、まぎれもなくその「昨日」には我々の「慣れ親しんだ日常」が存在しているためだ。慣れ親しんだ日常とは、即ち週末ヒロインや色分けといった数々の記号・概念によって構成されている。しかし「終わりなき革命」の実現においては、現在に留まることは許されず、過去を懐かしむことも許容されない。従って、始まったばかりであるこの世界の延長線上を、我々は歩むしかないのであった。現在を無条件に肯定する決断主義的態度は、確証のない未来においても同様の態度を規定するのである。そしてそこでは、他者(ファン)による愛と、自己の愛によって、正確に言えばそれらを認識しているという彼女達の主観的な「自信」において、決断は遡及的に肯定されるのだ。
 翻って『NEO STARGATE』において、我々は「過去を捨て去った姿」に出会う。即ち、色を捨て、週末ヒロインを辞めた、過去の記号を脱した彼女達の姿である。
瞳を閉じれば聴こえる それは声なき囁き
「怖れを手放し目醒めよ」 それは内なる閃き


我々は記号を捨て去ったとしても、「愛」による客観的・主観的肯定において、自身を認識することが可能となる。そしてその後に、彼女達は「週末ヒロイン」を真に脱するのだ。

 ひらり 時の螺旋
祈りながら進め
光 抱いたゲノム きらり
生まれ変わる

週末ヒロインという概念、色という概念は、「紅白に出る」という明確な目標をクリアするために使用されたものである。しかしその目標が達成されたため、これらの概念は今や制約条件でしかない。即ち、彼女達は新たな自己規定を必要とする。

舞い上がって 舞い上がって
囚われを全部解除して
迷いを蹴り上げ
その時は来る
そう、今まさに、そのときが訪れたのだ。
研ぎ澄ませ 自らを
削ぎ落とせ 古いパラダイム
今なら間に合う シフトしてゆけ
時間軸は 永久の今
コードは「愛」だ 未知なる軌道(みち)
次元上昇

日常からの脱却——週末からの脱却

もはや我々は、この歌詞の意味を理解することが出来る。古いパラダイムを捨てることは、これまでに蓄積された、彼女達に紐づけられた全ての記号をそぎ落とすことを指す。そしてそれらの記号が役目を終えた直後である今であれば、即ち「慣れ親しんだ日常」と化してしまった「非日常のアイドル」という背反する立場を認識できる現時間軸であれば、これらから脱却し、新たな決断を加えることが可能であることを指している。

具体的な決断がその後に描かれる。それは、「愛」を基準とし、時間軸を永遠として、「次元」を上昇させることを指している。さて、ここにおいて、「愛」を基準とするということは、前述したとおり、主観的決断における根拠として愛をしようするということであった。では、「時間軸」とは何であろうか。まさしくこれは、今までの蓄積にある歴史、そして「週末」という時間、さらには「アイドル」という時間軸を指す。もはや限定された、規定を持つアイドルではない。与えられた目標をクリアしていく存在ではない。あるいは、アイドルという、「旬」を持つ存在でもない。全ての時間的概念を取り払うことが「永久」の持つ意味であり、この概念を「永久」以外の何者によっても規定できない点において、我々は「未知」を歩むこととなる。

 まとめてしまえば、我々は、ここにおいて「時間」という次元を超越することを示しているのだ。そのことは、まさに「次元を上昇させる」という歌詞、「5次元」という「4次元=時間規定」を超越するというその内実によって描かれている。

その後、「愛」の内実に関する規定が書かれる。もっともそれは、我々は「愛」があれば何事も出来るという内容に収束しており、その内容が具体的に規定されるわけではない。しかし、しばしば「疑似恋愛」と誤解される「アイドルに対する」という概念が暗黙のうちに否定され、より広範な「愛」を問題としているということが、ここでは議論されている。

 さて、『NEO STARGATE』は、ももいろクローバーZを論じる上での、ひとつの区切り目として位置づけられるであろう。それは、この歌詞において彼女達はそれまでの自己規定概念を全て取り去っており、それは『5TH DIMENSION』ライブにおいてサイリウムの使用を禁止したことに象徴されるような、具体的行動にも繋がっているためである。だが生まれ変わるのは彼女達だけではない。我々もまた生まれ変わらなくてはならない。そうだ、古いパラダイムを、かつての彼女達を、「今、会えるアイドル」として愛された存在からの変化を、我々は受け入れなくてはならないのだ。思えば、本楽曲が歌われるとき、「生まれ変わる!」という強いメッセージは、ファンを含め全員が叫ぶ部分となってる。そこには、暗黙のうちに、我々自身の決断も含まれているのだ。そして試されているのである。概念を捨て去ることを。過去を峻別し、我々自身がまた、あいまいな根拠の下に「決断」を行うことを。

Posted by webnetforce